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なぜ『使徒言行録』はパウロの殉教を語らないのか?

 もしルカが、パウロのローマの軟禁生活以後についても記していれば、パウロのイスパニア宣教や殉教に関する多くの疑問が解決したことでしょう。資料を綿密に収集して『ルカ福音書』や『使徒言行録』を記したルカですから、パウロの晩年に関する資料もたくさん収集する事ができたにちがいありません。しかしルカは、それを書く必要はないと判断しました。

 ルカが記したかったのは「福音の広がり」です。『使徒言行録』前半の主人公・ペトロも、後半の主人公・パウロも、福音の広がりを具体的に描くための道具でした。ルカの『使徒言行録』執筆の真の意図は、「イエスの復活によってエルサレムに始まった福音が、遂には地の果てを代表するローマにまで伝えられたこと」を記すことでした。ルカはパウロ個人の活動よりも、世界における福音の広まりに関心を持っていたのです。

 ルカはパウロの最期を知っていたに違いありませんが、それを書くのは『使徒言行録』の執筆意図から外れると判断したのです。イエスの福音がローマにまで伝えられ、パウロが二年間、ローマにおいて福音の証人として活動したことを記すことで、ルカは満足したのです。

 私たちはパウロのイスパニア宣教への思いを『ローマの信徒への手紙』を通して知っていますが、ルカはパウロのイスパニア宣教については一言も触れません。『使徒言行録』にとっては、パウロのイスパニア宣教はなくてはならないものではなく、省略しても全く差し支えないものだったのです。

 もしかすると、ルカは『使徒言行録』に続いて、パウロのイスパニア宣教と殉教の次第を一巻にまとめる予定でいたのかもしれません。もしそうだったのなら、それが実現しなかったのは、実に残念です。


回答者=鈴木信一神父


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