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十字架のしるしについて

 数年前のことですが、東欧への巡礼に行きました。モスクワから次のブルガリアのソフィアへ出発する飛行場が何の予告もなく変更されており、あわただしく移動、その後もいつ出発するか全くわからず不安と混乱の長い時を過ごし、やっと搭乗手続きが始まりました。その時、一緒に行動していた現地のガイド——中年の男性でかつてロシア正教の司祭になりたかったこともあったという人でした——がほっとして十字架のしるしをしたのが印象的でした。

 ロシア正教を含む東方正教会では、「十字架のしるし」をする時、額から胸、そして右肩から左肩へと動かします。13世紀までは西方教会、つまりわたしたちのカトリック教会でも、この形で十字架のしるしをしていたようです。今のように左肩から右肩へと変わったのは14世紀以降のことと言われています。

 もともと父と子と聖霊の三位一体の神への信仰告白として、この習慣は生まれたようです。そのため、東方正教会では右手の親指と人差し指と中指の三本の指を合わせて、この動作をします。多くの場合、三回続けてこの動作を行っています。この親指と人差し指と中指を合わせた形というと、ローマのサン・カリストのカタコンベ、あるいはトラステヴェレのサンタ・チェチリア聖堂にある聖チェチリア(セシリア)の殉教像を思い起こされる方も多いと思います。また、教皇が祝福する時、右手の親指と人差し指と中指の三本で十字架のしるしをしている姿を思い起こされた方もあると思います。西方教会では、中世初期から十字架のしるしを行いながら「父と子と聖霊の御名によって」と唱えるようになったこともあって、三本の指でということはあまり言われなくなったのでしょう。

 いずれにしても、この組み合わせによって、わたしたちの信仰は父と子と聖霊の三位の神に対するものであり、わたしたちの救いは御子の十字架の死にあることが端的に表現されていると言えるでしょう。

 現代の神学では、過越の出来事、つまり十字架上の死と復活の出来事こそ、神が三位一体であることが明らかにされた出来事であると考えています。教会は昔から「十字架のしるし」と「父と子と聖霊の御名」とを組み合わせることで、あるいは三本の指で、三回連続して十字架のしるしをすることで、このことを暗黙のうちに表現してきたと言えるでしょう。


回答者=小高毅神父


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